聞いて集めた昔の話 第33回
(平成19年4月)
今月は葬式の「本膳」と「けんちん汁」についてのおはなしです。
昔は各部落において葬式(不祝儀)ができると「本膳」で、その葬式の参列者に振舞う料理として作られていたそうです。
葬式が出来ると組内の人をはじめ部落中の人が(料理人、膳組係、給仕係)などの受持ちが決められて手伝いが行われたそうで、「けんちん汁」作りには中年の男氏(おとこし)が2~3人の人がたのまれて料理手伝いの女氏(おんなし)一緒に担当し、その味付けは男氏がしたそうです。
「けんちん汁」は亡くなった人を供養するときの料理であるために、精進料理としての意味があり、材料は(大根、にんじん、ごぼう、じゃがいも、とうふ、切り昆布)などが使用されたそうです。
葬式の参列者に振舞うときは「本膳」には「本飯(ごはん)汁(すいもの)中置(ひじきなど)平(けんちん)皿(大根、人参などの野菜の和え物)」を盛り付けをして出しており、現在では「けんちん汁」に「がんもどき」を乗せるのは普通になっていますが、下摺淵では昔からの伝承として亡くなった人で(軒号、院号など)位階(いかい)の高い人の葬式には「がんもごき」を乗せたが、一般の人の葬式には使わないと云うことがあったそうですが、今はすべての葬式に「がんもどき」は使われているそうです。
冠婚葬祭に使う「膳」については「高足膳と平膳」の2種類があり、昔は個人で20組~30組位持っていて自分の家の家紋や屋号などを入れて造った家もあったそうで、中には部落で用意して「郷倉」や集会所に保管して置いて、葬式が出来ると出して来て使用したそうです。
「本膳」に使う料理についても、地域ごとに多少の違いはあったそうですが、「すいもの」に入れる「とうふ」は葬式では小さな「さいの目」切りにするが、普段は「さいの目」には切るなと言われているそうです。また、「皿」に盛り付ける料理についても、大根と人参をゆがいた物を「とうふ」で和えたものや、大根、人参、油揚げ、青菜などを甘酢で味付けをした物など地域によって特徴があったそうです。現在では、住宅の新築や改築などで家が狭くなり、大勢の人を寄せることが出来ないことや、地域の高齢化で手伝う人が少なくなったことや、また、農繁期には自宅で葬式を行うことが困難になってきたので、葬祭場などで葬儀を行うためにこのような料理を作る機会も少なくなったようです。
最近では、地元の素材を使って伝統料理の味が見直されて民宿などで冬の料理として、それぞれが工夫をこらした「けんちん汁」で宿泊客をもてなしがされるようになり、また、一般家庭でも冬の期間は食卓に出されるようになっていますが、このように永い伝統のある仕来りや料理も社会環境の変化と共に忘れられるのは寂しいと、取材にご協力を頂きました星野くに江さん(下小川)と新井光江さん、星野時子さん(下摺淵)は話しをしてくれました。